猿橋順子 / 大学教員
私たちのグループは、高校生1人、大学生2人、子育て奮闘中の私と、世代で言うと10代、20代、30代の4人で、その翌日(8月6日)に80歳を迎えるハルモニを囲んでのひとときとなりました。「戦争」をひとつのキーワードとしながらも、「戦争を思い出すことって、つらいんじゃないかな」という聞き手側の不安もありました。でも「分からない事を、分からないって、ありのままに聞いてみよう」という事だけ、みんなで確認をして、お話は始まりました。
戦時下の生活は、私たちの想像の範囲を超えているようにも思いました。目で見、体で体験した事を丁寧に説明して下さりながら、なお、とんちんかんな質問を繰り返す私達に、ハルモニは「あの時代に今みたいなカメラがあったらね。パチっと撮って、「ほら、これだよ!」って見せてあげられるのにね」とクスリと笑いながらおっしゃいました。
男性とおしゃべりを楽しむこともなく、親が決めた人のもとへ嫁がなければならなかったハルモニ。医療が届かず、二人のお子さんをはしかで亡くされたハルモニ。それでも、食べるものも着るものも無かったけれど、昔の人は情があったとハルモニは言います。ご飯を炊くためのマッチも、空腹を満たすためのお米も、あればお互いに貸し借りが出来た。明日は何をするかを、いつでも軒先で相談するご近所づきあいが、今はもうない、と寂しそうに振り返っていらっしゃいました。
私たちの生活は、食べるものも着るものも豊富で、恋愛もおしゃれも自由です。数日前にテレビ報道された、出会い系サイトを通じて知り合った男女の監禁事件に触れながら、私たちと同世代のお孫さんと一緒に暮らすハルモニは、「今は怖い人がいるからね、気をつけなくちゃいけないよ」と何度も諭されました。そして、最後に、ぽつりとこうつぶやきました。「今は、それが戦争じゃない?」
テレビの話が出たので、「昔はテレビなかったんですよねぇ?」と、また私は突飛な質問をしてしまいました。「ない、ない、ない!」思わず笑うハルモニに、「今のテレビにあたるものって、昔は何だったんでしょうか?」と苦し紛れに質問をつなぎました。少しの間、考えてから「兵隊さんを送り出す時にね、みんなで集まって千人針っていうのをするの。しょっちゅう行ったんだけれども、それがそうかなぁ・・・。」
テレビと千人針!?千人針は日本史の教科書でも出てきたし、映画にもよく出てきます。博物館で実物を見たこともあります。あるいは、千人針で兵を送り出し、戦死されたご遺族の方からしたら、「なんて不謹慎な!」とお怒りの声があがるかもしれません。ですが、当事者にとっては一生の一大事でありながら、どこか周りの人には常態化され、深く考えずに何となくそういうものかなぁと受け入れてしまう様は、あるいは現代のマスメディア報道に共通していると言えるのかもしれません。千人針をめぐって、「どこかで加担したのではないか?」という戦争責任を問う、かつて読んだ本の中の一説が、ふいにリアルによみがえった瞬間でした。
こうして振り返ってみても、多くの事を学んだというよりは、より大きな問いを突きつけられたというのが正直な感想です。ひとつだけ確かな事は、2日間のお話を通して、私たちひとりひとりが、自分のおばあちゃんとの関係を改めて捉えなおすことが出来たということです。聞き役だった私たちが、それぞれ、自分と自分のおばあちゃんとの関係を語り始めていました。そして、私も、この夏、久しぶりに子どもを連れて祖母の家を訪れました。戦争体験を聞くことは出来なかったけれども、祖母はとっても嬉しそうでした。こんな小さな心がけが祖母をこんなに喜ばせるなんて、ハルモニのお話を聞くまで、気付きませんでした。何となく後回しにしていました。
こんな小さな一歩ですが、大きな歩みにつなげて行きたいと思っています。これで、というよりは、これからどうするのかが重要で、それを今回出会った皆さんで、世代や性別、国籍を超えて、一緒に考えて行きたいです。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。 |
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